そこは、市街地の外れに位置する古い教会。
つい先日まで、その場所には神に祈る人々の姿が少なからず見られたはずだが――、
「遂に神様の場所まで奪い取ったんスか、聖女サマ?」
人気のない教会へと足を踏み入れ、
南波 太陽はそう軽口を叩いた。
教会の中にいるのは2人きり。
そのもうひとり――『聖女サマ』と呼ばれた女性が太陽の方を振り返る。
「うふふ、政府のエージェントさん、やっと来ましたね~」
呼ばれた名の通り聖女めいた微笑を零すは、
島岡 雪乃。
その笑顔を見て、太陽は分かりやすく嫌な顔を作った。
「そんな顔しないでください~。約束通り、協力してあげてるじゃないですかぁ~」
「それはそれッス。オレ、魔女に心まで売ったつもりはないッスから」
「だけど、私のお陰で、あなたの大嫌いな『アーク』の人間はいーっぱい死にましたよ~?」
にっこりとして、雪乃は不穏なことを言う。
「私はあなたの復讐に手を貸し、あなたは私の為にモレイビーを殺す……うふふ、ウィンウィンですよね~」
「……わざわざ呼び出しておいて、話は、それだけッスか」
「あら~? 取引相手とこまめにコミュニケーションを取るのは大事ですよ~?」
にこにことしている雪乃とは対照的に、太陽はズキズキと痛み出した頭を抑えた。
「……オレはもう行くッス。復讐の為に、モレイビーを、殺さないと……」
「ふふ、何なら、政府お抱えのモレイビー達もその頭数に入れてくれていいんですよ、裏切り者さん?」
「……政府のエージェントも、殺す……?」
夢の中を漂うような声で太陽はぼんやりと呟いて――けれどすぐに首を横に振る。
そうして彼は、何か得体の知れないものから逃げるようにして教会を後にした。
静けさ満ちる教会にひとりきり、雪乃は口元に弧を描く。
「……彼の心も、もうすぐ私の物ですね~」
強い復讐心は今まで太陽の自我を保たせてきたが、それだってもう限界だ。
モレイビーが死ねば死ぬほど、稀代の力を持つ『魔女』である雪乃の力は更に増す。
彼らの魂が持つ力は吸い寄せられるように雪乃へと集まり、そして。
「集束した魂は、人々の心を意のままに操る『魔力』となる……うふふ、素晴らしいです~」
魔女はひとり、空虚な教会で高らかに笑う。
◇
――反モレイビー派組織『ノアの箱舟』の指導者、島岡雪乃を殺害せよ。
それが今回の任務だと、
北原 みゆき達、政府側につき戦うモレイビーは告げられた。
「人心を惑わす特殊な術の使い手……『魔女』の、力……」
与えられた資料に目を通すうちに、みゆきの頬を冷たいものが伝う。
この情報を得る為に、一体どれだけの仲間が犠牲になったのだろう?
政府が掴んだところによると、現在雪乃は、市街地の教会に身を置いている。
しかし荒れ果てた街は、今や民間人による『モレイビー狩り』の温床だ。
加えて、『ノアの箱舟』を纏め上げる雪乃の周りには、多くの信者がいるだろう。
更に厄介なことに、雪乃の組織は『許された者』としてモレイビーをも擁しているらしい。
(彼女に近づくのは簡単じゃない。それに……)
雪乃の能力を考えれば、戦闘は混迷を極めるだろうことが予想された。それでも。
「――だからって放ってはおけない、よね」
決意を胸に、みゆきは拳をきゅっと握り締める。
そして時を同じくして――『アーク』のエージェント達にも、同様の命令が下っていた。
お世話になっております、巴めろと申します。
このページを開いてくださってありがとうございます!
ヒーローズ! の世界、再びです。
今作からのご参加も勿論大歓迎でございます。
ガイドには、北原 みゆきさんにご登場いただきました。ありがとうございました!
なお、もしこのシナリオにご参加いただける場合ですが、
ガイドでの描写は一例ですのでご自由にアクションをかけてくださいませ。
以下、本シナリオの詳細な説明になります。
このシナリオの世界観
舞台は、ちょっぴりSF風なバトルもの少年漫画っぽいパラレルワールドです。
この世界では、政府と悪の組織による戦いが長く続いていました。
しかし、後にハイパー・ロッコーン大戦と呼ばれるようになった事件を契機に、
異能力者たるモレイビー達は、異能の力を持たない人々から『危険な異端者』として追われる身となり、
世間では『モレイビー狩り』と呼ばれる一般人によるモレイビー殺害事件が日常的に起こっています。
モレイビーをエージェントとして有している政府への信頼も失墜し、
戦いは、『政府対悪の組織』という枠には収まらない益々混沌としたものになってしまいました。
☆用語集☆
○『ヒーローズ・プロジェクト』
長く続く現政府により設立された、非政府派異能力者対策組織。
後述のモレイビーを中心に多くのエージェントを擁しています。
現政府の治世の安定は崩壊し、現状、組織の人間への民間人からの風当たりは強いです。
加えて、元より政府には不満を持つ者を抑圧・排斥することを厭わない一面があった為に、
後述の『アーク』に所属する人間を始めとする反政府派との軋轢も今も存在します。
また、エージェントには政府の闇を知っている者も知らない者も存在しています。
○『アーク』
打倒現政府を掲げて『ヒーローズ・プロジェクト』と敵対する反政府組織。
政府側と同じく多くのエージェントを抱えた大規模な組織です。
組織としては政府を倒すことで国をより良い方向に導きたいという信念を持っていますが、
理想の実現の為には手段を選ばないこと、また多くのモレイビーを擁することから、
民間人から見れば『悪の組織』であり、憎悪の対象の一つとなっています。
○『ノアの箱舟』
ハイパー・ロッコーン大戦後に創立された反モレイビー派組織の一つです。
人々をモレイビーから救い導くとの建前の元、モレイビーを排するよう民間人を扇動しており、
モレイビー達の魂から生み出される特殊な『魔力』によって、
民間人達を洗脳することで急速に巨大化した組織であるという秘密を持っています。
また、『許された者』として、二大組織対策にモレイビーも擁している様子。
○モレイビー
生まれながらにして特殊能力・ロッコーンを備え持った特別な人間。
正義の為、家族の為、金の為、理想の為、己の居場所を守る為、
或いは幼い頃から戦う為だけに育てられたり純粋に戦闘狂だったり。
戦う理由は様々ながら、その多くは政府側・反政府側いずれかのエージェントです。
また、現実世界のもれいびとは一切関係はございませんので、
現実世界ではもれいびだけどこの世界では敢えて非能力者だったり、
現実世界とは全く異なる特殊能力を有していたり、
現実世界では普通の人間ながらこの世界ではモレイビーだったりと、
お好きな設定をPC様に付与してお楽しみいただけますと幸いでございます。
○ロッコーン
モレイビーが1人につき1つだけ備え持つ特殊能力。
現実世界のろっこんとは一切関係はございませんが、
能力に関するルール等は基本的にろっこんを参考にマスターが判断いたします。
このシナリオで認められたロッコーンが通常のろっこん審査でも認められるとは限りません。
ロッコーンには、戦闘特化型のものも存在する他、
民間人の前でも問題なく能力を発動することができます。
なお、あまりにチートと判断される能力は設定できず、調整の対象となります。
○ハイパー・ロッコーン
特殊なラムネ菓子を食べることで、一時的にロッコーンを進化させる超技術。
政府が開発したラムネ菓子は『アーク』の手にも渡っている他、
裏ルートより民間にも密かに流通しているようです。
ロッコーンを可視化・具現化させ、交流したり戦わせたりする、
ロッコーンと一体化し、魔法少女やヒーロー、天使や悪魔等の姿に変身する……等々、
自由な発想でハイパー・ロッコーンを操ってくださいませ。
但し、あまりにもチートと判断される能力は調整の対象となります。
このシナリオでできること
下記から属する勢力をどれかひとつを選んで、
必ず「キャラクターの行動」欄の冒頭に【A】【B】【C】【D】と記入してください。
所属毎に達成を目指す勝利条件が異なります。
なお、このシナリオに関しましては、
『勝利条件を満たすことを目指さない』行動も問題なく認められます。
誰が真の勝者となるかは皆様のアクション次第です。
荒れ果てた街にはPC様方以外にも多数の民間人がおりその多くはモレイビー達を狙っている他、
反モレイビー派から逃れようとしている二大勢力所属、或いは無所属のモレイビーもいるかもしれませんし、
『ノアの箱舟』の一員として行動しているモレイビーや非能力者の存在もあるでしょう。
なお、雪乃がいる教会は街の中央付近に位置しています。
【A】『ヒーロー・プロジェクト』所属
【B】『アーク』所属
スタートは市街地の入り口付近からとなります。
両者とも、先ずはとにかく生き延びてください。
モレイビーでない場合も、二大勢力の人間と知れれば捕えられる可能性が高いです。
勝利条件は、島岡 雪乃を倒すことで『ノアの箱舟』の影響力を大きく削ぐこと。
【C】『ノアの箱舟』所属
スタート地点は任意です。
より多くのモレイビーを倒してください。
モレイビーの命が散れば散るほど、洗脳の力が大きくなり有利になります。
勝利条件は、洗脳の鍵を握る島岡 雪乃を守り切ること。
【D】その他
いずれの組織にも所属せず活動する方はこちらをお選びください。
定められた目的はなく、ただの民間人として行動するも野良モレイビーとして逃げ惑うも自由です。
新たに組織を立ち上げていただいても構いません。
また、所属勢力を選んだ上で、この世界でのPC様の設定は基本的にご自由にどうぞ。
・平和の為、政府側と『アーク』を結びつけようと尽力するエージェント
・洗脳の影響を受けていないが、正義を信じて『ノアの箱舟』に所属する民間人
・『ノアの箱舟』と協力関係を結んでいるモレイビー
等々、お好みの設定を盛り盛りしてくださいませ! 但し、
・『決して負けることのない最強無敵の』エージェント
のような、他の参加者様の設定を間接的に決定づけてしまう設定等はご遠慮ください。
問題があると判断した設定は、調整の対象となります。
なお、設定は可能な限り詳細にアクションにご記入いただくことをお勧めいたします。
性格や口調等も、現実世界とは全く別のものに設定していただくことが可能ですが、
こちらご希望の場合はその内容を必ずアクション内にご記入くださいませ。
なお、前回ご参加いただいた方も、全く別の役柄を演じていただくこともOKです。
登場NPCについて
○島岡 雪乃
『ノアの箱舟』の指導者で、組織の人々からは『聖女』と崇められています。
が、その裏で、実際は政府の転覆・乗っ取りを企んで暗躍している様子です。
モレイビーが死ぬことで生まれる『魔力』は全て彼女に集結しており、
心が弱い者は『魔女』たる彼女に近づくだけで洗脳されてしまいます。
強い心を持つ者でさえ彼女の前では心が揺らいでしまう他、
彼女が強く願えば、洗脳の『魔力』は一時的に大きくなる為、
彼女を倒すには心の強さだけでなく何かしらの対策が必要になるでしょう。
彼女と対することを選んだ際には『魔力』の影響を受けることを覚悟してくださいませ。
○泉 竜次 博士
『ヒーローズ・プロジェクト』所属のモレイビー。
ハイパー・ロッコーン技術を完成させた天才技術者兼一流のエージェントです。
モレイビーであり、しかも危険な技術を生み出した張本人でもあるとして、
反モレイビー派達から執拗に追われる身の上となってしまいました。
ロッコーンは『掌を広げ念じることで掌を中心に攻撃を跳ね返すバリアを張る』。
○南波 太陽
『ヒーローズ・プロジェクト』所属のモレイビーでやり手のエージェント。
戦闘で家族を失い、自ら望んで政府側のエージェントとなったという過去を持ちます。
笑顔の裏に『アーク』に所属する人間への強い敵意を抱えており、
密かに『ノアの箱舟』と通じて、『アーク』を滅ぼさんと動いていましたが、
既に雪乃の『魔力』に洗脳され掛かっている状態です。
ロッコーンは『移動したい先を視認し手を叩くことで瞬間移動ができる』。
○五十嵐 尚輝
『アーク』所属のモレイビーで研究者兼エージェント。
実験に全てを捧げる静かな狂気の持ち主で、
己が求める実験に思うように注力できない現状を憂いています。
ロッコーンは『危機を察知した時に小鳥型の爆弾を召喚できる』。
○高野 有紀
『アーク』所属のモレイビーでベテランのエージェント。
政府への憎しみと自分を拾ってくれた『アーク』への恩義の元に生きる戦士ですが、
『モレイビー狩り』を前にして、自分達の存在意義に密かに悩んでいます。
ロッコーンは『己の手の甲にキスすることで身体能力を一時的に向上させる』。
皆様のアクション次第で、ここに名前があっても登場しないNPCが出てくることもございます。
また、このシナリオでは登場NPCと関係を結ぶこともできます。
生き別れの兄弟・戦友でライバル・恋人同士等々基本的に設定は自由ですが、
・『唯一無二の』親友
・『一番』弟子
等、他の方の設定に影響を及ぼしてしまう設定は採用いたしかねます。
なお、特定のNPCに恋人が二人、のような状況も起こり得ますので、
その点ご了承の上でNPCとの関係は設定してくださいませ。
また、このシナリオでの関係は現実世界での関係とは一切関わりがございません。
パラレルな世界での命懸けの戦い、お楽しみいただけましたら幸いでございます。
ご縁がありましたらよろしくお願いいたします!